連載エッセイほんの序の口39

王国の面影宇田智子

王国の面影

日に何度か、配送業者の人が大きな台車で通りの店をまわり、一軒ずつ声をかけて荷物を引き受けていく。いつも途中で載せきれなくなって、市場の営業所に戻って下ろしては出直してくる。私も呼びとめて本の入った封筒を渡そうとすると、「いま載らないんで、あとで取りにきますね」と止められた。こんな薄くて小さな包みは、かえってじゃまになる。
古本屋を始めてから、どうやってものを送るかということばかり考えている。安さと速さ。手渡しかポスト投函か。追跡はできるか、補償はあるか。相手とこちらの都合をすりあわせて、いちばんいい送りかたを探す。
ここが沖縄でなければ、こんなに悩まなくてすむのかもしれない。県外への宅配便は値段がはね上がるので、できるだけ配送料が全国均一の方法を選ぶ。厚さと重さの制約に、毎度泣かされる。本は薄く引きのばすことも半分ずつ分けることもできないから、そのままのかたちで送るしかない。あと数十ページ少なければこのサイズに収まったのに。嘆いては、しみったれた自分が情けなくなる。
最近、店のトートバッグをつくった。せっかく注文をいただいても、なかなかうまく折りたためない。絵が切れてしまったり、持ち手の部分が重なって厚さがオーバーしたりして何度もやり直す。手先の不器用な私には、かたちの決まった本が向いているのかもしれない。
夕方になると、営業所の前にとまったトラックに荷物がどんどん積みこまれていく。あれがみんな市場からの荷物だとは。小さな店が何百軒も集まって、県外へ海外へ、トラックいっぱいの商品を送りだしている。荷物は明日には港か空港に運ばれて、海を渡る。国道58号線を海岸線に向けて走るトラックに、かつて東アジアの交易の拠点として栄えた那覇の面影を、見る。

表紙のことば表紙の言葉

猫が通るような横道に入って石畳の細い道を行く。宿の部屋で執筆中、雪が降り始めたらあまりに静かなので気がつくだろうか。伝説の宿「和可菜」、暗くなってきても明かりが灯らないなと思いながら絵を描いた。女将93歳にて、休業に入られたとか。なくなるのは寂しいけれどそれは見事な生きた道だと。
(表紙画 タムラフキコ)

新刊エッセイ

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好評連載

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    犬の掟とその限界について
  • 鉄道ひとつばなし253原 武史

    山形新幹線を考える
  • 拗ね者たらん 本田靖春 人と作品19後藤正治   

    この連載を書くために生きている
  • 「母親神話」の国、日本14竹信三恵子

    婚活大作戦のちぐはぐ
  • 日本人を愛したニュートリノ11

  • 新日本野球紀行141二宮清純

    川口、津田、新井……鬼軍曹の哲学─大下剛史激白録④
  • 社会性の起原38大澤真幸

    「食」をめぐる葛藤の弁証法的解決
  • 「聖書の言葉」を読む11佐藤 優

    神の国はあなたがたの間にある

「本」から生まれた書籍

最新号もくじ

[連載名]タイトル 著者名
[ほんの序の口]38 王国の面影 宇田智子
〈巻頭特集〉 ブルーバックス「通巻2000番」突破記念 特別寄稿① ブルーバックスによせて 福岡伸一
特別寄稿② 超弦理論が究極の基本法則となる日には 大栗博司
データでみる、ブルーバックス   
一人の読者   穂村 弘  
幸福に「なる」のではなく幸福で「ある」         岸見一郎     
[スピンク日記]103 犬の掟とその限界について 町田 康
日本はこんなに長かった!─北陸・北海道新幹線取材日記   コマヤスカン
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[鉄道ひとつばなし]253 山形新幹線を考える 原 武史
日本人を愛したニュートリノ11 あと一八ヵ月、生きていれば…… 緑 慎也
拗ね者たらん――本田靖春 人と作品19 この連載を書くために生きている 後藤正治
現代哲学と欲望論2 メイヤスーの思弁的実在論 竹田青嗣      
「母親神話」の国、日本14 婚活大作戦のちぐはぐ 竹信三恵子
なぜ神社の数はコンビニよりも多いのか?         浜口倫太郎
「忘れ得ぬ人」の面影を探して─江戸博物学の魅力と『江戸の花鳥画』   今橋理子
[新日本野球紀行]141 川口、津田、新井……鬼軍曹の哲学─大下剛史激白録④ 二宮清純
[社会性の起原]38 「食」をめぐる葛藤の弁証法的解決 大澤真幸
「聖書の言葉」を読む11 神の国はあなたがたの間にある 佐藤 優
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