連載エッセイサンライズ

ほんの序の口47 サンライズ宇田智子

ほんの序の口47 サンライズ

 海岸についたときは明るかったのに、七輪でたまねぎを焼きはじめたら空が紫色になっていた。暑くても秋は近い。
「すみません、サンセットが見られる場所はどこですか?」
 若い女性が息を切らして駆けてきた。えー、こっちからは見えないよ、東だもの。反対側に行かないと。そこは車でどのくらいかかりますか? 三十分はかかるよね、もう間にあわないから明日にしたら。
 最後まで聞かずに女性は走り去った。きっと明日帰っちゃうんだろうね、と言いながらひとりがたまねぎを口に入れた。うん、まだ生だ。
 六年前、私たちは毎晩のように橋を渡り、小さな島の砂浜に集まって、日が昇りかけるまでそこにいた。まわりには誰も住んでいなくて、音を出しても火をたいてもよかった。いまはその脇に大きなホテルが建ち、浜にも椰子の木などが植えられてすっかり整備されている。今日来たのは別のビーチの駐車場で、足元はコンクリートだし、ここから海には下りられない。それでも通りぬける風は涼しく、星も見えてきた。
 葡萄や餃子、太鼓にギター、好きなものを思い思いに広げる。あのころみんなの演奏を黙って聴いていた人が、三線を弾きながら歌えるようになっている。仕事なんか休んで遊びにいこうというのが口癖だった人は、三年前に始めた店を毎日開けていると話す。去年この世に生まれた子どもは、笛を吹いて同じ音を鳴らし続けている。
 日付が変わるまえに帰ることにした。気をつけて、うちらもそろそろ帰るよ。みんな神妙な顔をして送り出してくれた。
 次の日、「結局朝までいて、車で寝てから帰りました」とメールが来て、変わってないなあと安心した。サンライズは見たのだろうか。

表紙のことば表紙の言葉

強い光が一コマ一コマの絵をスクリーンに映し出す。子供の頃からの映画好き、何巻にも分かれている映画一本分の巻きを取り出してフィルムを繫いだり字幕を付けたり。フィルム上映の美しさだけでなくその手間を愛しているのかも。押し流されずに生き延びてレコードのようにまた人々に求められるか。西横浜、長い商店街の端のとてもとても小さな映画館で。
(表紙画 タムラフキコ)

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最新号もくじ

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[ほんの序の口]最終回 メッセージ 宇田智子
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〈特別寄稿〉 高倉健の実像をたどる 森 功
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