連載エッセイほんの序の口37

古本と風呂敷宇田智子

古本と風呂敷

 市場に続く商店街の、店と店のあいだの階段をのぼると長い廊下がのびていて、片側に窓、片側に部屋が並ぶ。そのなかに、週に一日だけ開く図書室がある。
 戸を開けるともう何人か集まっていた。たこ焼きにから揚げ、さんぴん茶や焼酎の載ったテーブルを囲んで乾杯する。読書会の始まりだ。
 参加者が順番に自己紹介しながら、自分の持ってきた本について話す。今日のテーマは「沖縄」。雑誌の沖縄特集や定番の『沖縄文化論』、ひめゆり部隊を題材にした漫画もある。一見、沖縄に関係なさそうな本も、「実はこんなページがあって」と明かされて感心した。
 聞きながら、その人がその本に出会った場面を思いうかべる。ツタヤで買った本を鞄にしまい、新都心の坂を自転車でくだる背中。古本屋の奥の棚の陰で、写真集を繰る指。町のあちこちに、本に引き寄せられる姿がある。
 途中でそっと戸が開いた。入ってきた人は割りこむ隙のないテーブルを避けて脇の椅子に座り、カウンターに風呂敷の大きな包みを置いた。お寿司かしら。視界の隅でぼんやり眺め、本を広げている人にまた向きなおる。
 やがてテーブルの人の話が一通り終わって、カウンターの彼の番になった。みんなが注目するなか風呂敷がほどかれて、茶色い函入りの本が出てきた。
「なんだ、食べものかと思ってた」
 声があがって、私だけじゃなかったとひそかにほっとする。寿司桶よりも大きく立派な『琉球建築』は、戦前に出版されて復帰の年に復刻された本だ。
「父が買ったそうです。家にありました」
 昔の首里城の写真に見とれながら、想像する。父が四十年前に買った本を人に見せようと、大事に風呂敷でくるんで息子が担いでいく。本の中身と同じくらい魅力的な場面に思えた。

表紙のことば表紙の言葉

人通りの多い街、角を曲がって店に入ったら、ここが日本かわからなくなる。人が住み始め、その人たちの生活に要るものが売られる。街は生きていて、それはなんだか早回しを見ているようだ。
(表紙画 タムラフキコ)

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